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IPアドレス枯渇問題

増大するIPアドレスのニーズ

今インターネット関係者の間では IP アドレス枯渇問題が騒がれている。正確に言えば、インターネットの創成期から使用され、現在も広く使われている IP アドレスの形式 IPv4 アドレスが枯渇している。IPv4 では43億程の IP アドレスを割り振ることが可能である。この程度の IP アドレスがあれば、大丈夫と思われたのであろうが、アドレス配分で大盤振る舞いをした結果、もう枯渇してしまった。

IP アドレスの重要性は現在では誰の目にも明らかである。電話番号がビジネスにとって欠かせない以上に、Web サーバーはビジネスにとって欠かせない。もしもこれが手に入らないならば、新しいビジネスの成功は望めない。

スマートフォンの普及によって、IP アドレスの需要が飛躍的に伸びた。この傾向はまだまだ続くに違いない。スマートフォンの場合には、家庭との契約ほどはグローバルな IPv4 アドレスは消費しないと思われるが、スマートフォンの販売数を考えると IPv4 アドレス枯渇を考える上で重要な問題であろう。

中国、インドなど今後爆発的にインターネットが普及する地域が存在する。そうした地域でIPアドレスの不足がインターネットの普及を阻害し、経済の発展にも影響を与えるだろう。

Web サーバーをビジネス用途に使うとなれば、固定したIPアドレスが不可欠であろう。IPv6 がまだ十分サポートされていない現状のもとでは固定した IPv4 アドレスが要求される。

筆者の家庭はコミュファと回線契約している。我が家に置かれたサーバー用に使える固定 IPv4 アドレスが欲しいのであるが、手に入らない。3週間程で時々変化する IPv4 アドレスと、固定した IPv6 アドレスが手に入る。この場合、現状では用途が制限される。

IPv6 アドレスと言うのは、 IPv4 アドレスの枯渇予想を受けて考案された、新しい形式の IP アドレスである。IPv6 アドレスは将来の需要に十分に耐えられると考えられている。しかし問題なのは、IPv6 アドレスはなかなか普及しない事にある。IP アドレスはコミュニケーションの基礎であり、IPv6 アドレスが十分に普及しない限り、IPv6 アドレスを採用するメリットはない。そのことがまた IPv6 アドレスの普及を阻んでいる。

膨大な IPv4 アドレスが死蔵されている

IPv4 アドレスが大盤振る舞いされたと書いたが、その実態を見てみよう。
インターネットの黎明期には現在普通に使われているプロクシーサーバーとか NAT の技術は無かった。パソコンからインターネットに接続したければ、グローバルな IP アドレスが必要だと考えられたのである。その結果、将来において設置が予定されているパソコンの台数分だけ、グローバルな IP アドレスを申請し、認められたのである。

愛知大学では4000個程のグローバル IP アドレスを申請し、保有している。現在では実際に使われているグローバル IP アドレスは100個にも満たないであろう。

愛知大学は遠慮していた。他大学ではさらに極端である。下記の記事を見ればわかるように国立大学では一律に65000個程のIPアドレスを保有している(東大では20万程)。さらに多くの私学もそうである。しかし実際にそれらが活用されているわけではない。殆どの大学では100個もあれば十分であろう。

枯渇の意味

ここで「枯渇」の意味をもう少し正確に解説しておく。インターネットで使える IP アドレスは世界中で重複を許されないので、世界的な組織(現在は ICANN)が割り当てを管理している。管理は下部組織への委任方式で、アジア太平洋地域組織(APNIC)を経て日本の JPNIC が管理している。IP アドレスが欲しい日本の組織は必要に応じて JPNIC へ申請することになる。

https://www.nic.ad.jp/ja/ip/admin.html

IPv4 アドレスが「枯渇」したと言われているのは、JPNIC が管理している IPv4 アドレスが枯渇した(2011年)と言う意味である。

ICANN (Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)
APNIC (Asia Pacific Network Information Center)
JPNIC (Japan Network Information Center)

2014年4月の JPNIC の声明

 JPNIC では独自のアドレス在庫を保有せず、APNIC と共有しているため、 APNIC の在庫枯渇によりJPNIC においても、 IPv4 アドレスの通常割り振りを終了いたしました。
今後の IPv4 アドレス分配方法は、 「最後の/8ブロックからの分配ポリシー」 に基づいたものへと変更になります。 また、分配済みアドレスの新たな再利用方法として、 IPv4 アドレス移転制度の施行を、 2011年7月~8月をめどに検討を進めています。

https://www.nic.ad.jp/ja/topics/2011/20110415-01.html

過去に JPNIC から IPv4 アドレスを割り振られた組織は未使用の IPv4 アドレスを保有している。NTT などはまだ在庫を持っているために、固定 IPv4 アドレスが欲しい場合には NTT と回線契約をすれば(料金は高いが)手に入る。

コミュファも在庫を持っているはずである。現在、コミュファは契約ごとにグローバルな動的 IPv4 アドレスを割り振っている。つまりグローバルな IPv4 アドレスを消費しているのである。インターネッットへの接続は(とっくに)常時接続の時代に入っており、動的であるからと言ってグローバルアドレスの節約にはならない。コミュファにとって、グローバルな IPv4 アドレスの在庫を持たない限り、新たな契約はできないのである。

同様な事情は ISP も抱えている。インターネット接続に ISP と契約した場合には、IP アドレスは(回線提供業者ではなく) ISP によって付与される。付与されるのは多くの場合 IPv4 動的グローバルアドレスである。しかしそれでも契約ごとに IPv4 グローバルアドレスが消費される。つまり、グローバルな IPv4 アドレスの在庫を持たない限り、新たな契約を獲得できない。

JPNIC の IP アドレスの管理方針

IPv4アドレスの申請手続き

料金 # 料金の妥当性はどのように決めているのか?

IP アドレスは誰のもの?

 JPNICポリシーは、アドレス空間は希少な共有資源であり、 その分配は必要な数だけを責任を持って行われるべきであると、 インターネットコミュニティ全体に働きかけるものである。 アドレス空間を使用するISPやその他の組織、および個人は、 資源の「所有者」ではなく、「管理者」とみなされる。 アドレスの残数がさらに少なくなると、 アドレス空間管理ポリシーはコミュニティにより修正される場合がある。

https://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-01193.html#6-6

 アドレスを使用せずに蓄積しておくことは、 節約と公平性の目標に反する。 JPNICポリシーは、蓄積するのではなく、 すぐ使用するものとして具体的に示された必要性にもとづき、 効率的にアドレスを分配するべきであるとしている。

https://www.nic.ad.jp/doc/jpnic-01193.html#6-7

IPアドレスは誰のものか?

JPNIC はインターネット黎明期に JPNIC から直接的に交付されたIPアドレス注1を回収しようとしているが、なかなか回収に応じてくれない。


注1: Provider Independent アドレスと言う。簡単に PI アドレスとも言う。この一覧は
http://pentan.info/doc/ip133_list.html
で見ることができる。

枯渇した現在では IPv4 アドレスの使用権に関する性格付けは難しいものになっている。次の事情を考慮しなくてはならない。

資産価値を持つようになれば、出し惜しむであろう。潤沢な IPv4 アドレスの保有者は、それだけで競争優位に立てる。ライバルを増やすだけでしかない IPv6 アドレスへの移行を望まないであろう。

資産として認めて、マーケットに任せればよいとの考えもあろう。しかし、IPv4 アドレスは IPv6 が遅れれば遅れるほど、値上がりが見込まれる。そのために投資目的の大量買いが発生するだろう。有効活用はおろか、IPv6 の普及を阻害することになる。

ややこしい問題を避けるには、無尽蔵の IPv6 に移行するのが一番良いのだが...

IPv4 アドレス移転制度の施行前までは、組織の吸収合併や買収など、書面にてその事実が客観的に確認できる場合を除いて、IPv4 アドレスを他の組織に譲渡することは認められていませんでした。

その後、レジストリにおける IPv4 アドレスの在庫枯渇を契機として、APNIC では2010年2月から、JPNICでも2011年8月より「IPv4 アドレス移転」制度を導入し、上記のような組織の吸収合併や買収等以外のケースにおいても、IPv4 アドレスの割り振り・割り当て先を他の組織に変更することを可能としました。この移転制度の導入により、分配済み IPv4 アドレスの流動化を促すことが期待されるからです。

https://www.nic.ad.jp/ja/mailmagazine/backnumber/2012/vol986.html

ここでは IPv4 アドレスの売買を認めるとは言っていない。しかし、既にアメリカでは堂々と売買が行われている。また直接的な売買ではなくとも、移転に際して裏では金が動くことは十分に考えられる。