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東日本大震災と原発事故に思う

目次

2012/04/29

大震災以降しばらく様子を見ていましたが... 感じたままを書いていきます。乏しい情報の中で誤りはあるかも知れません。その場合にはメールで指摘お願いします。

情報の発進力

2012/04/29

混乱の時期に最も必要なのは情報である。阪神淡路の時と違い、今回の東日本大震災はインターネットがある程度普及した段階で発生した。行政が十分対応できない中で現地の状況を伝えるボランタリーな情報発信が大きな役割を果たしている。
断っておくが、行政の対応が不十分である事を非難しているのではない。行政組織が麻痺しているのであり、行政組織の規模や編成が平時を想定しているのであって、このような時期には機能しなくて当たり前なのである。問題があるとすれば、この事態に対してボランタリーな協力を求め、積極的に受け入れ、組織化していく行政側の姿勢であろう。(僕はこの件に関して誤解があるかも知れないが、もどかしさを感じる。)

僕は個人的な理由で石巻市の雄勝町に関心がある。航空写真で見れば分かるように、雄勝町は壊滅状態である。しかし情報の発信が弱い。町のホームページは未だに災害前の状態である。同様に壊滅状態の宮城県の陸前高田市、南三陸町、さらに町の幹部の多くを失った岩手県大槌町では現在では公式HPの中で積極的に被災の情報を発信しているのと対照的である。
雄勝町は2005年の平成の大合併で石巻市に繰り込まれた*。この事が大震災での情報の発進力に影響を与えている可能性がある。
雄勝町からの情報はボランティア組織「ふんばろう東日本プロジェクト」 (http://fumbaro.org/)から手に入る。代表の西條剛央氏とは面識が無いが、僕は彼の考え方に共鳴するし、行動力には敬意を持つ。

僕がもう一つ注目しているのは、被災地の高校の卒業生が組織している「MFGがんばろう宮城」(http://mfgwelovemiyagi.heteml.jp/welovemiyagi/mfg-basketball/)である。僕は相手が見える支援組織を支えていきたい。

注*: Wikipedia 雄勝町 (宮城県)

情報と危険回避行動

2012/04/29

何かが発生したら、その危険性に対する認識は、楽観的な見方から悲観的な見方まで様々である。より確実に危険を回避するために、人は悲観的な見方を想定して対策を立てる。それはリスク回避の常識的な考え方であろう。従って情報が不足すると心配すべき可能性が広がり、必要以上の対策を立てる事になる。

福島原発の事故が報道されたときに人々はパニック的に物を買いあさった。この行動を笑うわけには行かないであろう。情報が不足している中での、本能的な危険回避行動である。不要なパニックを防ぐためには政府は十分な情報を出さなくてはならない。心配しなくてもよい事、リスク回避のために対策を立てるべき事、現在の状況、将来の見通しなどである。「直ちに健康に影響しない」は人々が求めている情報に答えていないのである。

僕がもっとも恐れていた事

2012/04/29

福島原発事故に関して僕がもっとも恐れていたのは空焚きである。つまり圧力容器に水が無くなる状態である。この場合に何が起こるか? 口にするのも憚られるような事態をも想像せざるを得ない。だからこそ福島第一原発の作業員は命の危険を冒しても懸命に水を供給している。幸いにも、現在の状況は空焚きの危険性は回避されたかのように見える。そして現在の課題は、空焚き回避から、もっと小さな問題、すなわち放射性物質の漏洩防止に移っている。(それでも大きな問題ではある)
原子力発電は、うまくコントロールされていれば(核廃棄物の問題はあるとしても)原発推進論者が言うように魅力的な発電方式である。しかしコントロールを失う事がある。その場合に想定される最大の被害が社会的許容限度を超えていれば、きっぱりと諦めるべきであろう。

僕が今恐れている事

2012/04/29

報道をみる限り福島原発の作業員はあまりにも過酷な労働でる。適切に作業要員を交代していかないと、彼らが倒れ、あるいは心が折れてしまうかも知れない。ヒューマンエラーが発生し、事態を深刻な方向に変化させるかも知れない。しかし、今の状態で交代要員を確保できるのか.... このような心配をしていたときに、心配を裏付けるようなニュースが飛び込んできた。

福島第1被ばくは別枠=最大350ミリシーベルトに-「働けなくなる」東電検討

東京電力の松本純一原子力・立地本部長代理は28日の記者会見で、福島第1原発の作業員の被ばく限度について、今回の事故の緊急作業による被ばくと、通常作業での被ばくを別枠として扱うことを検討していると明らかにした。
緊急作業による被ばく限度は特例で250ミリシーベルトとされているが、通常の限度は1年で50ミリシーベルト、5年で100ミリシーベルト。別枠で扱わないと、緊急作業に従事して通常の限度を超えた人が他の原発で働けなくなるという。
合計すると5年間で最大350ミリシーベルトとなるが、松本代理は健康上の問題はないとして、厚生労働省や経済産業省原子力安全・保安院と協議する考えを示した。


時事通信社(2011/04/28-22:39)

現状を追認しながら安全基準を緩和していくようだと信頼は得られない。要員を新たに確保するのはますます難しくなっていくだろう。悪循環を断ち切るためには信頼される事がまず必要である。

福島市の汚染状況に思う

2011/05/03

福島市はもはや子供を育てられる環境にないのではないかと気になっていた。そのような中で、政府が小中学生に対して大人の基準値の年間20mSvを適用したことに対して内閣官房参与の小佐古敏荘氏が抗議の辞任をした。ICRP勧告の20mSvの意味に関しては江川紹子が小佐古敏荘氏から聞いた話を紹介している(文献[1])。

福島にとどまるべきか、脱出すべきか? 福島市民にとっては悩ましい問題である。回避コストと非回避リスクを天秤にかけなくてはならないのだ。そしてその天秤はどちらにふれるか簡単には分からないのである。確率が絡むから...
回避コスト: 確実な不利益
非回避リスク: 確率的な不利益

起こってしまった事に対してコスト(リスク)なしの対処はありえない。回避コスト(転居など)は個人の事情に強く依存している。そしてこの場合には高価なコストであり、推定可能である。分からないのは回避しない場合のリスクである。原子力安全委員会はリスクについて国民に説明すべきである。

以下に僕が理解したことをまとめる。

図1. 部位別がん死亡の1Sv(臓器線量)における相対リスクおよび90%信頼区間(文献[4])

この図は積算 1Sv を浴びた場合の死亡リスク(横軸1が影響なし)である。図は1Svの場合であるが、これで十分である。影響の大きさは被ばくの大きさ(Sv値)に比例すると考えられている。
白血病を除けば、1.5倍程度に増えているように見える。チェルノブイリの事故では小児性甲状腺がんが話題になったが、この図では甲状腺がんに対して顕著な影響が見られない。甲状腺がんはヨウ素131を体内に取り込んだ場合に発生しやすい。ここでは外部被ばくの影響のみを扱っている事に注意する。
がん死亡率を30%と見積もると、1Svの放射線を浴びたことが原因で15%が死ぬ。発病するまでに何年もかかる。
ICRP勧告(2007)は(もっと複雑な分析によって)この半分程度(7~8% 程度)に見積もっている(文献[2[,[3],[5])。
以下、簡単のためにこの中間を採って10%とする。(実験で得られたデータではないので精度は低いと考えられる。従って小さな違いを問題にしても意味が無い。)
ICRP勧告は公衆に対する許容限度を年間1mSvとしている。これだと一生の間の被ばくは100mSvを超えない。そして100mSv以下であれば被ばくによる死亡リスクは1%以下にまで減少し、統計的に観察できないレベルまで落ちるので実際上の影響はないとの理屈である(注1)。
年間20mSvだとどうか? 5年間で100mSv(死亡リスク1%)、50年間で1Sv(死亡リスク10%)となる。白血病を除けば、弱い放射線による被ばくの影響は10年後、20年後、あるいは30年後になると考えられるので、リスクに対する判断は年齢に依存する。
僕のように子育てを終えたものにとっては、(余命20年~30年と見積もって)、年間20mSvは許容範囲である。どっちみち遠からず死ぬのである。何が原因で死ぬかは関係ない... 回避する方が面倒くさい。
しかし子育て中の家族はどうか? 悩ましい...
子供は大人よりも放射線の影響を受けやすい。しかしも子供にとっての20年後は大人にとっての20年後とは意味が違うのである。被爆時10歳の子供に対する影響が文献[4]に載っている。

図2. 固形がんの性、被爆時年齢別相対リスク(1Sv)の経年(年齢)変化(文献[4])

「固形がん」とは白血病を除くがんの事である。この図を見る限り、被ばくした子供が成人(20歳)になるまでのがんの発症率を1.5倍から2倍程度に見積もらなくてはならない。
幼児に関してはもっと影響は大きいはずである。被ばく時年齢への依存性を示すデータが欲しいが、見つからない(注2)。

以上は外部被ばくの影響だけを問題にしている。幼児に関しては内部被ばくの問題が深刻である。福島市の土は放射性物質で汚染されている。福島市で観測されている高い放射線量は土の汚染を反映している。これらは粉塵として体内に入る。ここの住人は注意深い行動が要求される。しかし幼児は大人と違い、コントロールが難しいのだ。

将来の展望が必要である。現在の福島市の汚染は雨によって徐々に改善されては行くだろう。しかしどれくらいの期間を要するかわからない。これが分からないと居続けた場合のリスク評価ができない。福島県原子力センターは放射線量を測定し公表する役割を担っているはずであるが、現在は機能停止状態である。福島市は福島市の4つの観測点でのデータを公表している(文献[6])。観測点としては十分とは言えないが、参考にはなるだろう。

注1: 統計的なノイズの中に隠れることをもって線形モデル(リスクが被ばく量に比例するとするモデル=LNTモデル)を否定する研究者がいるらしいが、否定する根拠にはなっていない。線形モデルはシンプルな実用的なモデルであり、これを否定するなら証拠を示さなくてはならない。証拠としては実験しやすい小動物を使っても構わない。
注2: 国連科学委員会では照射時の年齢を3群(0歳から9歳、10歳から19歳、成人)に分けてリスクの評価を行っている(文献[7])。またRISTも文献[8]で解説している。

平均値の魔術

2011/05/08

「平均値」と言うものは、しばしば問題点を覆い隠すために使われる。ICRP 勧告(2007)が放射線のリスクを、子供も女性も、全人口の平均値の中に隠してしまったがために、問題点が見えにくくなった。リスクを評価しなくてはならない側(実際に被害を受ける側)は、自分が、あるいは家族が、女性であるか、子供がいるかぐらいは分かっている。平均によって低く評価されたリスクによって安全だと説明されても安心はできないであろう。

さて、飯館村の汚染状態が3月末に問題になった。汚染の激しい地域を見つけ、警告することが観測の目的だと思われるが、原子力安全保安委員会は観測点の平均値をとる事によって問題を覆い隠してしまった。また、彼らが5cmまでの土を採取し、結果を kg 当たりで発表したのもよく分からない。 汚染は土の表面付近(せいぜい2cm程度)らしいので kg 当たりだと採取した土の深さに依存するのである。(10cmまで採取すると数字は半分になったであろう。意味の無い平均値をとるのでこのようなことになる。) なぜIAEAが行ったように単位面積当たりで発表しなかったのだろうか?

空理空論

2011/05/08

学校では確率の計算を極く簡単な場合についてのみ学ぶ。コインとかサイコロとか、対称性によって等確率で事象が現れると見なしてよい場合には確率計算は簡単になる。後はコインやサイコロの個数を増やして複雑さを演出しているが、易しさの程度は大して変わらない。大学の入試問題はこの程度のレベルのものが出される。

もしも大学入試に回り将棋のコマの問題を出したらひんしゅくを買うだろう。将棋の駒を振って、立つ確率を求めるのは至難の業である。僕はこんな計算があるのかどうかも知らない。世間には物好きが居るからあるかも知れないが、仮にあったとしても信頼性はきわめて疑わしい。

世の中には実験や統計によってしか確率を推定できないものはたくさんある。いや、殆どがそうだと言ってもよい。実験の場合には何回も繰り返さなくてはならない。10%の精度で確率を推測できるには100回ほど実験しなくてはならないであろう。また統計の場合には多くの事象が観測されなくてはならない。

東大大学院のある先生は次のように言っているらしい(注1)。

この確率論的安全評価というのは、確率を考慮してリスクを求めるためのもので、都合のいいシナリオだけとってきて、例えば大隕石が落ちますよ、怖いですよ、地球は全員死んじゃいますよと言ってもしょうがありません。
ラスムッセン報告は30年前の古いデータです。その後、多くの研究がされています。この結果、格納容器破損が起きる確率は極めて小さい。チェルノブイリのようなことが起こるとは、原子力の専門家は誰も思っていないわけです。それを起こるかもしれない、危険ですよと言って、根拠のないデータを意図的に持ってくるような解析は問題だと思います。

この先生は原発事故の確率を求めることができるなど、本気で考えているのだろうか? 原発事故は実験できないし、稀な事象なので推定すらできない。確率を計算したと称する計算方法を再度説明して貰いたいものである。

原子力発電は自動車事故よりも1万倍以上安全(発生確率が小さい)だから心配するなと言っている変わり者が居る(注2)。数名が犠牲になる自動車事故と、数十万人に影響を与える原発事故を確率だけで比較しているのである!

注1: http://www.saga-genshiryoku.jp/plu/plu-koukai/shinbun-3.html
注2: http://www.enup2.jp/newpage38.html

専門家の見解

2011/05/09

平川直弘、岩崎智彦「原子炉物理入門」はこの分野の標準的なテキストらしい。物理学の教養がある者にとって原子炉を分かりやすく丁寧に解説しており、良書だと思う。しかしここには次のように書かれているが、言い過ぎだろう。
PWRについて「上部で待機している全ての制御棒とホウ酸水注入という原理的に異なる2つの原子炉停止設備を有しており、いかなる事故を想定しても原子炉を未臨界に維持できるよう設計されている。」
「BWRには、制御法挿入およびホウ酸注入という原理的に異なる2つの原子炉停止設備を有しており、いかなる事故を想定しても原子炉を未臨海に維持できるよう設計されている。」
この中の「いかなる事故を想定しても」を字句通りに受け取ってはならない。設計には前提があるのであり、前提が崩れたときには安全性は担保されない。
なお「夢の原子炉」と言われていた(事故が多すぎて最近はこのような言い方はされないようだが...)高速増殖炉については、「高速増殖炉は未だ実用化の段階に至っておらず、設計も計画されている炉心ごとに大きく異なっていることを付言しておく。」
と書いている。

原子炉は地震で損傷?

2011/05/13

今朝の朝日新聞に次の暴露記事が載っている。

3月11日には既に漏れていた!
原因は爆発でもベントでもない。建屋は津波で損傷していないので、津波でもないだろう。残る可能性は地震で配管か何かが損傷した?
だとすれば、電源喪失だけが問題ではないのだ。
CNIC News「福島原発に関する緊急記者会見」(03/26) で田中三彦氏と後藤政志氏が言っていたことが裏付けられたか?